妹の結婚

メールのやり取りはあるものの、めったに電話なんて掛けてこない上妹から着信が。
嫌な予感はしたのだけれど。


上妹が結婚するそうだ。
やっぱりね。
以前に、結婚することにした、と電話で言われる夢を見た事があって。
思わず母親に「妹ってまだ結婚しないよね?」と確認の電話を入れた事があって。
その頃から覚悟はしていたけれど。


いつ結婚するって、こんどの土曜日に。土曜?
あと6日間しかないじゃないか。
あまりにも急な話すぎるよ。
週末に飛んで帰るから会いたい、と言ったのに「仕事で忙しいから」と。
「今も一緒に住んでるし、式は挙げないし、急って言っても土曜は籍を入れるってだけだし、名字が変わるだけで何も変わんないよ」なんて言うけれど。
それは違うのだよ兄としては。


今はまだ私の家族で、私の妹で、彼氏は他人でしょ。
だけど、来週になったらもう、彼氏が家族で私は他人だ。
妹がまだ家族でいるうちにやらなきゃいけない事があるんだ。
彼氏に対して「分かった妹はくれてやる、そのかわり一度でいい、奪っていく君を、君を殴らせろ」と言えないじゃないか。
「おめでとう」だって、電話で言っただけじゃないか。
幸せそうな顔を見る事も、抱きしめる事もできないじゃないか。
兄をして何もしてあげられないじゃないか。


次に会う時はもう向こうの名字になっているなんて。
悲しいし寂しい。
だけど、これは受け入れてあげなければならないんだ。


そういえば今年の妹の誕生日に送ったメールを思い出した。
「あなたが楽しく幸せに暮らしてくれたら、私も嬉しい」と。
だから、妹の幸せな結婚は私にとっても幸せなんですよ。


私は、「世の中のすべてのお兄ちゃんは、自分の妹が世界で一番かわいいと思っている」と本気で思っているし、当然私もそうです。
妹がいてくれるだけで、周りの人はみんな幸せであると、私は思っています。
だから、妹が結婚することで一番幸せなのは妹でなくて妹の結婚相手なんですよ。
だって私の妹と結婚するんですよ?
私の妹の結婚相手が世界で一番幸せに決まっているじゃないですか。
だから妹はせいぜい結婚相手に世界で二番目に幸せにしてもらえばいいんです。


妹の結婚、これは兄が背負わなければならない試練なのですよ。
そして兄に試練を与えるのは妹の役割なのですよ。
妹よ、その役割を果たしてくれてありがとう。
そして兄は妹の幼少期から今までのすべての想い出を肴に酒を飲み、枕を濡らして眠るのです。